はなくそモグモグ

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塾「クリスマスはなんか予定あんの?」  ぼく「お世話になります」

痛っ

 

唇が切れた、彼女の可愛さに唇をゆがませたときのことだ。

言わずもながらここは外なので、唇が乾燥していた。

まいった。僕は男であまりファッションに気を使わないほうなので

あいにくリップクリームなど、唇を潤す手段を持ち合わせていなかった。

そんな困り果てた僕を見て、彼女は状況を察したようだ。

彼女はリップクリームを僕に貸そうとしたが、その過程で手を止めた。

僕はありがとうと礼を言おうとしたが、彼女が手を止めたので反射的に僕を言うのをやめた。

僕はどうしたのだろうと彼女を見つめていると。

どうやら彼女は何か思いついたらしく、不敵な笑顔を浮かべた。

どうしたんだ?僕がそう聞こうとしたその時、

開こうとした唇が、自分以外の何者かの手によって塞がれた。

厳密には手ではなく唇なのだが。

んっ・・・

そう、彼女は僕にキスをした。

あまりの突然の出来事に僕は戸惑った、が

僕の舌に絡みつく彼女の舌がそれを物語った。

僕と熱いキスを交わすことで、僕の唇を潤そうとしたのだ。

僕は人前でキスをするのが恥ずかしく、癖で周りを見渡した。

なるほど、冷静にはなってみるものだと。痛感した。

イルミネーションと白い雪が彩る景色、

僕らの愛を後押しするかのように反響する騒音。

今日はクリスマス。

この街には自分ら以外にもカップルがいる。

町中でキスをすることぐらい、当然であり何ら不自然でない。

それを彼女は利用したのだ。

キスしてもおかしくない状況を口実に、僕の唇を盗んだのだ。

なんと賢い。

彼女は唇だけでなく、僕の心さえも奪っていった。

聡明で照れ屋な彼女なりの愛情表現だろう。

そう思った僕は、彼女に身を委ねることにした。

普通は男がリードするべきなのだろうが、ここは怜悧な彼女を立ててやろう。

と自分に言い訳し、僕はされるがままになった。

 

 

いくらか、経つだろうか。

彼女の顔は雪と対比するかのように赤くなっていた、

あまりの素っ頓狂な行動に自分でも恥ずかしいのだろう。

恥ずかしい故に、離せなくなっていたらしい。

そう察した僕は自分から唇を離した、

自分としてはもう少しこの時間に酔いしれたかったのだけれど

それは夜のおたのしみとしてとっておこう。

いまにも湯気が出そうな彼女の愛しい顔を見て、

僕は思わず微笑んだ。

 

今度は唇が切れなかった。

 

僕は唇だけでなく、心さえも潤されたようだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ね