はなくそモグモグ

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くだらない話

考えたから聞いてくれ

 

『淘汰る、イクリプス』

 

一人の人間がいました。

彼は幼少期の頃苦労する親を見てきたので、この世界をより良くしようと思いました。

「世界をより良くする」それを存在意義とし日々努力しました。

結果、彼は莫大な富と名声を手に入れました。

しかし、その巨大な資本を彼は私利私欲に使わず、ひたすら貧しい人の救助などの支援費にあてました。

彼は仕事とボランティアを両立させ、毎日寝る間も惜しみ、世界を良くしようした。

「ただひたすらに、世界を良くしていく」

そんな生活が続いたある日、彼は倒れました。

世界を良くするために働き過ぎた結果でした。

過労。これは神が「人間が驕るな」と啓示するかのようでした。

入院生活が続き、彼は仕事ができなくなりました。

しかし、病院の中でさえも彼は「世界をよく」しようとしました。

ひたすら「支援」に金を注いでいく。

何が彼を突き動かすのか、それは謎であるが

心理学者は「人間の域を越えたキチガイ」であると彼を評価し、

そんな彼を応援する民衆も少なくはなかった。

しかし、病院の中では仕事ができないので莫大な資本もついには底をつく。

お金が無ければ人は動かない。。。彼は現実に突き当たりました。

俺はどうすれば・・・そんな絶望に打ちひしがれるある日

ごく少数ではあるが、彼の姿を見た人間が、彼に募金し始めました。

すると、一人、また一人と彼に支援していく人々。

彼の善意を、人間が、市民が、国民が、支えてくれたのです。

彼は仕事をすることなく莫大な富を築き。それらを「支援」につぎ込んでいく。

彼は人間一人ひとりの善意を繋ぐインターフェースになったのです。

これで世界を良く出来る・・・

そう思った彼はより精を出し、「世界を良く」しようとしました。

皆の善意で彼は動ける。この構図はもはや「良い世界」なのではないだろうか。

しかし、それは「皆の善意であれば」の話である。

現実は非常でした。

やがて募金されるお金が少なくなっていく。

それ気づいた彼は、「支援」を縮小せざるを得なくなりました。

そう、所詮は一時のブームに過ぎなかったのです。

 

             ーーーーーーーーー募金している人がいる、私も募金しよう。ーーー

ーー誰かが募金したから、自分も募金するーーーーーー

      ーーーーーーーーー皆が募金している、僕も募金しなくちゃーーーー

ーー募金する人間はかっこいいーーーーー

           ーーーーー募金をする人って優しいよねーーーーーーーーー

 

そこに善意などなく、偽善という波に飲まれた人間の所業にすぎず。

一時の流行、集団の流れ、そのような強迫観念による募金だったのです。

当然、熱が冷めたブームは死に、やがて募金する人間はいなくなります。

それは愚か、彼の復興の為にあてた「支援金」を不正に私利私欲のため中抜きするものまで現れました。

そうして彼は一文無しになりました。

金もなく、名声もなく、それを手にする体も無くなりました。

そして、希望さえも。。。

しかし、彼は諦めなかった。

彼の善意を裏切った人々を、彼の善意を馬鹿にする人々を

そんな人々が作った世界を

彼は愛し続けたのです。

 

 

そんな哀れな彼を見た神様は。

 

彼に能力を与えたのです。

それは「移動に困らない体」ただそれだけ。

 

アンパンマンのように空を飛ぶのか。

あるいは、魔法使いのように瞬間移動をするのかは想像にお任せするが。

 

とにかく彼は、世界中を飛び回れる能力を手に入れた。

それから彼は、世界中を飛び回り世界を良くしていきました。

 

飢餓に苦しむ人間にパンを、

愛に飢える人に保護者を、

人間関係に悩む人に助言を。

 

それは、貧しい人でなく先進国の会社員でさえも、

彼の救いの手が届かないことはありませんでした。

 

彼は理想の世界を作る術を手に入れたのです。

彼は確信した「この世界は絶対に良くなると」

 

しかし、「助けを求める」というのは「欲を持っている」のと同義であり。

悪く言えば人間の「こうしたい、ああしたい」を彼は助長させているに過ぎなかったのです。

人々は潜在的に、彼の善意につけこみ。自分で物事をやらなくなりました

しだいに人々は彼を「便利屋」のように、こき使いました。

炊事、洗濯、料理、仕事、宿題、課題。

あらゆる「面倒事」を彼に押し付けました

しかし彼はそれを断ることなく一切を受け付けました。

それを許容できる能力を神に授かったからです。

「僕は選ばれし人間なんだ」そう驕ることもなく

彼は「これは世界を良くする」と確信し、ひたすらに世界中を飛び回りました

 

やがて、人間たちは努力することを忘れ、一切を彼に頼りました。

唯一我慢することがあるとすれば、「彼が来るのを待つ」ことぐらいでしょうか。

 

人々は彼に頼るせいで体を動かさなくなりました。

毎日きれいな布団で寝込み、用があれば彼を呼ぶ。

食事はすべて彼がまかない、排泄物すらも彼に処理させました。

どんどん人々の体は肥えていき、まるで人間の醜さを反映させるようでした。

 

一歩も動けなくなった人々が外に用があれば彼を呼び運んでもらう。

しかし、超人的な彼の肉体は世界中の人間の我侭を受け付けることができたが、

それでも量が多すぎるので、彼は自分のクローンを作り、必要分だけ、作業を効率化しました。

やがて、人々は彼らなしでは生きていけなくなったのです。

そうして、醜く肥えた人々は人と交わることなく、

ただ欲望を満たすだけの日々が続きました。

そうして、「彼に頼らない」極小数の人間だけが国を統治し、

かろうじて社会を保っていました。

彼に頼る人々は太っていて、さらに永く歩いていなかったため

自分で立つこともできません、

それは愚か、立とうと努力することすら忘れてしまったのです。

そういった人々はやがて肥え、自分の欲望を満たすままに散っていきました。

 

当然、異性と交わらないので、交配する機会もなく

ただ欲望というレールに自分を乗せて走らせただけなので。

終点に着き、自分の代で途絶えさせていきました。

こうして長い年月が経ち、年齢の高い順から「彼に頼る人々」は消えていきました。

そして、最後の一人、男か女かすらわからない太った肉の塊が

息をすることを辞め。

 

彼に頼る人が、子孫を残さずすべて消えていきました。

 

その最後の一人を見届けた彼は、そのまま

「彼に頼らなかった人達」が作った部屋をくぐり

「彼に頼らなかった人達」が作ったドアをくぐり

「彼に頼らなかった人達」が作った道路をあるき

「彼に頼らなかった人達」が作った高台をのぼり

その頂上で

「彼に頼らなかった人達」が作った社会を見渡しました。

 

それをみた彼は

 

満面の笑みを浮かべてこう言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホラ、

         世界ハ良クナッタ」

 

 

それが、生まれて初めての彼の笑顔でした。